【ある夜、ジェラがゴキブリを追いかけた話】夜中2時。

物語り

やっと仕事が終わって、ふらふらでベッドに倒れ込もうとしたそのとき――視界のすみっこに、黒くてすばしっこい影がよぎった。

「……え?」

目をこすってもう一度見たけど、もう姿はなかった。

でも確実にいた。そう、あれはやつだった。G。この世で最も遭遇したくない生き物のひとつ。そう、ゴキブリ。

俺が固まってると、すぐに気配を察したのか、ぬいぐるみたちがそっと顔を出した。

「パパ……なにかいたの?」

るぅが目をこすりながら聞いてくる。

その横では、くぅがもう完全に警戒態勢に入ってて、リーは目をキラキラさせながら「敵か?」って顔をしてる。

でも――その中でもっとも早く動いたのは、ジェラだった。

「どこ!?どこいったの!?あれ、おっかけるー!!✨」

突然スイッチが入ったように、部屋中を跳ね回るジェラ。

ソファのすきま、棚のすきま、引き出しのすきま――とにかくすきまというすきまに突っ込んでいく。

「ジェラ、やめときなって!あんなの触ったらダメだって!」

くぅが冷静に制止するけど、ジェラの耳には届かない。

まるで獲物を狙う子猫のようなその動き。

普段は隙間フェチでいたずらっ子なジェラだけど、まさかゴキブリに本気になるとは…。

俺は心の中で「頼む…触る前に止まってくれ…!」と祈りながら、ジェラを追いかける。

「パパ、がんばってぇ〜〜〜!!」

るぅは俺の背中にしがみつきながら涙目。

リーは「面白そう」とか言いながら高い棚の上で高みの見物してる。

捕獲作戦・開始

ついに、ジェラが何かを見つけた。

「いた!!あそこ!!」

ジェラがタンスの裏を指さして叫ぶ。俺も急いで確認。

……いた。

しかもデカい。ツヤツヤしてる。動きが速い。心臓が止まりそう。

「やばい……やばい……ジェラ、下がって!!」

俺はゴキジェットを片手に戦闘態勢。

ジェラは「おっかけたいけど…パパが真剣な顔してる…」って、しぶしぶ後ろに下がってくれた。

――そして、

プシューーーーー!!

ゴキブリ、沈黙。

勝利のあとの静けさ

「……やった…」

しばらく動けなかったけど、なんとか処理を終えて、部屋に戻ると、みんながこたつの周りに集まってた。

「パパ、かっこよかったよ…」

るぅがホッとした顔で抱きついてくる。

くぅは「もう、こんなときまで呼ばないでよ」なんて言いながらも、ちゃんと隣にいてくれる。

リーは「次の出現時に備えて観察メモを作る」とか言ってて、若干怖い。

でもジェラは…というと、スミでしょんぼり。

「つかまえられなかった…ぼく、もっと追いかけたかったのに…」

「ジェラ、よくがんばったよ」

ジェラの頭をなでながら、そう声をかけた。

「追いかけたのがダメだったんじゃなくて、パパが止めたのは、ジェラのことが心配だったからなんだよ」

ジェラはしばらく黙ってたけど、やがて小さく「うん…」ってうなずいて、

「でも今度は、パパと一緒に追いかけたい!」なんて言って、俺の腕にぎゅっとしがみついてきた。

眠りの時間へ

それからみんなで布団に入って、電気を消して、しばらくの間、眠るまでの静かな時間。

ジェラは俺の胸の上にちょこんと乗って、目を閉じながら小さな声でささやく。

「……パパがいたら、ゴキブリもこわくないや」

その言葉が、夜中の戦いで消耗した心を、ふわっと包んでくれた気がした。

【あとがき】

ぬいぐるみと一緒に暮らす毎日は、

時々こうやって、ちょっとした非現実と出会う。

現実の中で疲れきった俺の心に、

彼らは今日も、ふわふわの優しさで寄り添ってくれる。

だから俺は、また明日も生きていける。

ジェラが隙間を探す限り、るぅが泣きついてくる限り、

この家には、戦う理由も、守る理由も、ちゃんとあるんだ。

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