ある夜のこと。
時計の針は、もうすぐ午前2時を指そうとしていた。
ぬいぐるみたちがいつものようにおやすみモードに入る時間。
…のはずだった。
でもその日、るぅだけは違った。
「……パパ、るぅ、今日こそ旅に出るの」
るぅはちいさなリュックに、ちいさなお菓子と、ちいさなお手紙を詰めた。
行き先は──月。
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■「どうしても、ひとりで行きたいの」
数日前のこと。
るぅは寝る前に、こっそりとジェラと話していた。
「るぅね、もっと強くなりたいの。甘えんぼって言われるの、ちょっと…やだ」
ジェラはいつものようにケラケラ笑って言った。
「えー?でもるぅってパパのこと大好きでしょ〜? 強くなるの?ほんとに〜?」
「なるのっ!!」
悔しそうにプンプンするるぅの姿に、ジェラはくすぐったそうに笑っていた。
だけど、るぅの目はまっすぐだった。
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■そして、深夜の脱出作戦
るぅはパパとママ(なつみ)が寝静まったのを確認すると、そ〜っと寝床から抜け出した。
くぅとリーが気づかないように、音を立てずに。
リュックの中には、
・ミニサイズのプリンゼリー
・パパからもらったキーホルダー
・手書きの地図(るぅ作)
・「パパへ」の手紙
を入れた。
「これがあれば、大丈夫」
月への旅は、窓辺の三日月階段を登っていく必要がある。
ふだんは見えないけど、夜中にだけ現れる魔法の階段。
るぅはそっと窓を開けると、ふわりと浮かぶ三日月に向かって足を踏み出した。
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■うさぎだけの宇宙列車
空に浮かぶ三日月階段を登りきると、そこには見たこともない光景が広がっていた。
「うわぁ……すごい……」
キラキラとした星の海。
ふわふわと浮かぶ雲の中から、銀色の電車が現れた。
車掌はなんと──うさぎ!
「ようこそ、宇宙列車“ルナエクスプレス”へ」
「あなた、るぅさんですね。月までご案内いたします」
「えっ!?なんで名前しってるの!?」
車掌うさぎさんはウインクして言った。
「パパさんが、毎晩あなたの夢を守っているからですよ」
…るぅはちょっと涙が出そうになったけど、グッとこらえて乗車した。
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■月で出会ったのは、未来の自分
宇宙列車に揺られること数分(ぬいぐるみ時間で)。
るぅはついに月に到着した。
そこにいたのは──なんと、ちょっと大人になった“未来のるぅ”。
「よく来たね、るぅ。がんばってここまで来たね」
未来のるぅは、いまより少し大きくて、自信に満ちた表情だった。
でもやっぱり、耳がふわふわで、ちょっと甘えんぼなとこは変わってない。
「どうしても、会いたかったの。るぅが本当に強くなれるか、知りたかったの」
未来のるぅは言った。
「強くなるってことはね、泣かないことじゃないんだよ。
泣いてもいい。でも、大切な人のために前を向けることなんだ」
るぅは、その言葉をしっかり心にしまった。
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■旅の終わり、そして「ただいま」
るぅはお別れの時間が来たとき、名残惜しそうに月を見上げて言った。
「…未来のるぅ。また来るね」
未来のるぅは笑って手を振った。
帰りの宇宙列車では、るぅはすっかり眠ってしまった。
車掌のうさぎさんが、やさしくブランケットをかけてくれた。
「おつかれさま、旅人さん。また、夢の中で会いましょう」
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■そして朝
朝、パパが目を覚ましたとき、
枕元に小さなリュックと、1枚の手紙が置かれていた。
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「パパへ」
るぅ、月にいってきたよ。
ちょっとだけ、つよくなれたきがするの。
でも、やっぱりパパにぎゅってされるのがいちばんすき。
だから、ただいまっていわせてね。
だいすきだよ。
── るぅ
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パパはそっとるぅを抱きしめて言った。
「おかえり、るぅ。よくがんばったね」
るぅは、にっこり笑って、
「うん!もう、甘えてもいい?」
って、いつものようにぎゅってくっついてきた。
そんな、ちょっとだけ強くなった夜の大冒険。
誰にも気づかれない、でも、たしかにそこにあった──
るぅの、ひとり旅のおはなし。
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【おしまい】
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